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「お前は既に手を汚した、雨は凌げない」
いつどこで行方不明になったのか、それははっきりしている。
大阪府大阪市中央区、花金に耽る某クラブのエントランスで事件は起きた。
帰り際、半分自己責任を匂わし預けたビニール傘が消えてなくなった。
5年以上も昔のことだが忘れもしない
たった数時間、目を離しただけなのに。
右手一本だけのわずか0.1秒の犯行、スケルトンの彼は私の手元から姿を消した。
いや、パクられた。
完全犯罪が成立する裏側には加害者の欠落したモラルに加えて、意思表示ができず誰にでも心を許し、羽を伸ばす傘の度量深き所以だ。
足が残らないビニール傘の盗難被害が立件されることは到底ない。
〰︎ 立件率ワースト1位「ビニール傘」 〰︎
世界的に見ても「パクられ度ランク最上位」ではないのか?
晴天下では一度だって見向きもされず、荷物扱いな彼の人気ぶりは豪雨で幕を開ける。
「めっちゃ降ってるやん」「傘いるって」「いつ止むん」
能天気に酒を煽りながら音楽にノっていた私は傘の存在を打ち消しクラブ外の雨模様に吐露する民衆の物言いに耳を貸すわけがなかった。
カミカゼが食道に流れ体全体に染み渡り気分は最高潮に達する。
酒と音楽の欲望たちに囲まれ胸が躍り時間から解放されたような自分がバカらしくなった。
単独犯か腹を合わした犯行かに無論、興味はないが充分に仕事を努めた彼をしかと労ってくれただろうか。
まさかお役御免とかで、雨に打たれ濡れた路面に放ってはないよな。
それは解放ではなく仕打ちだぞ。
傘が許しても俺は許さねえ。
〰︎ 柄は黒、全長57cm、ビニールは透明 〰︎
「誰か知りませんか、見ていませんか?」
傘の目撃者がいようと意味をなさない。
だって無限大に実在する特徴のない特徴なんだから。
行方不明届は提出していない。
犯行声明も出ていない。
身代金もせびられない。
「まじ、なんなの、不可解でオネエ口調になるわ。」
一体、彼はどこに監禁されているのだろう。
予期しない形でさよならを告げることすらできない別れになったが僕は君を忘れない。
今週のお題「傘」