⧫言動に住み着く他者
著作の主人公「古倉恵子」は幼少期から「奇妙がられる子」だった。
それは家族から同級生や先生に至るまで「そんな扱い」を受けていた。
小鳥の死骸や同級生同士の喧嘩、先生のヒステリーの解決を恵子が収束させるのだが誰も想像がつかない奇怪チックなやり方なために「変わっている子」というレッテルが貼られる。
小学生では多様性を尊重できるほど学習能力が発達した生徒は皆無に等しいため、どの子からも軽蔑を受ける対象として恵子は見られていたに違いない。
対象的に「普通」である妹は姉である恵子を敬遠するのではなく慕うほどの仲、一方で父と母はどうすれば恵子が『治る』のかを悩んでいた。
それら言動が四方八方から「異常」だという圧力を感じる恵子には両親を苦悩させるのは本意ではないことから「自身を抑圧する」ことに走る。
そこから対人の性格的要素を入力しコンビニ店員として出力する人生を送る。
⧫土足で侵入する他人の人生
コンビニ店員の研修を難なく熟しオープン当日も社員のフォローを受けながらコピーマシーンのように実行結果がハマった時にやっと「正常」を手にした。
大学時代での「アルバイト勤務」は社会的にも認知されやすく許諾も与えられやすい。しかし、年齢論を持ち出す日本文化では年齢が30歳を過ぎ去ると一気に「異常者」を見る目に変わる。
非正規雇用の30歳男性、大学院に通う35歳男性、未結婚正社員38歳女性。
多様性の世界で差別的批判を平気で、無意識に攻撃するような勘違い成功者は「お節介」を全力で提示する、モラルハラスメントをまじまじと感じる。
「私はゴール地点で君を待っているんだよ」的な発言の連続が繰り広げられているように感じる作品だとしみじみ思う。
だから今すぐに行動に移して最高の幸福を掴み取るんだと言わんばかりの価値観の押し付けが人を苦しめていることが微塵にも感じない振る舞いに身震いする。
この作品に散らばる幾人のセリフは感情の倉庫かと思わせる発言量だった。
⧫原点回帰
コンビニ店員で「正常」を掴み取った古倉恵子がアラフォーを前にコンビニ勤務歴を十数年に迎える分岐点で本来の姿を見つけ出す瞬間が披露される。
「異常」だと世間から判定される人生に気苦労する恵子は最後の最後で本能を呼び起こし自分色に人生を染め上げる出発点を見つける。
身体の細胞から語られる言葉を一つ一つ解析しながら解答を感覚器官で導き出す自己の本懐を感じ取る恵子の興奮が伝わる。
コンビニ人間を読んだ。均等な存在になるためコンビニの「店員」として同質性を追求し、他者の性格的要素を住み着かせる古倉の葛藤物語。
— 犬飼ブログ (@inukailand) 2019年7月18日